マイクロバイオーム4

脳・腸相関2

脳‐腸‐微生物相関とは

脳と腸は、常に情報を交換し合い、互いに影響を及ぼし合う関係にあります。この関係を「脳腸相関」といいますが、近年、脳腸相関に腸にすみつく腸内細菌が関与していることが分かってきました。そして、現在では、脳腸相関という概念は「脳-腸-微生物相関」という新しい概念に進化してきています。
 脳腸相関における腸内細菌の関わりが世界で注目されるきっかけになったのは、腸内細菌を持たない無菌マウスを使った基礎研究の報告でした。
 この研究で、無菌マウスは腸内細菌を持つ通常マウスに比べ、ストレスに対して過敏であること、脳の神経系を成長させるための因子が少ないことなどが分かりました。その後、無菌マウスに通常の腸内細菌を移植すると多動や不安行動が正常化するという報告もされています。
 つまり、腸内細菌はストレスの感じ方や脳の神経系の発達・成長、そして行動に関わる存在であることが示されたのです。
 脳腸相関をより深く理解するためには、今や腸内細菌は無視できない存在と言えます。

脳腸相関の悪循環にも腸内細菌が関与?!
 ストレスが強くなると症状が悪化するという特徴から、ストレス関連疾患として知られている「過敏性腸症候群(IBS:irritable bowel syndrome)」。
 IBSは、腸に問題となる異常がないにもかかわらず、腹痛や腹部の不快感が続き、習慣的に便秘や下痢などの便通異常を繰り返す機能的な消化管疾患で、日本の人口の約1~2割に見られるなど、決して珍しい病気ではありません。

 なぜストレスによってこの病気が悪化するのか、長い間原因が分かっていませんでしたが、IBS患者では、脳が不安やストレスを感じると、その信号が伝わりやすく、腸が過剰に反応し、痛みを敏感に感じ取りやすい(知覚過敏)こと、そして、その刺激が脳に伝わり、苦痛や不安感が増すことが確認され、IBSは脳腸相関の悪循環によって起こっていることが分かってきたのです。さらに、この脳腸相関の悪循環を生み出す要因として、感染性の腸炎をきっかけにIBSの発症が見られるように、腸内細菌が大きく関与している可能性も示されるようになってきました4)。
脳腸相関に関わる腸内細菌ですが、一体どのように脳に情報を送っているのでしょうか。
 腸内細菌の脳への影響のメカニズムについてさまざまな角度から研究が進められていますが、最近の研究で、腸内細菌が「迷走神経」を刺激し、脳に影響を及ぼしていることが分かってきました。
 「迷走神経」は、脳と腸を結ぶ神経で脳と腸が情報を交換するルートの一つです。腸内細菌から脳への情報伝達も、この「迷走神経」を介していると考えられています。また、この考えを応用し、腸内フローラのバランスを改善するプロバイオティクスを心身の不調の改善に役立てようという研究も行われています。

過敏性腸症候群(IBS)の症状

便通状態から「便秘型」と「下痢型」、そしてその両方を交互に繰り返す「交替型」に分類されます。
便秘型はコロコロとした便で出にくく、排便後も便が残っている感覚があります。
下痢型は軟便や水様便が頻繁に出ます。
また、どの型にも起こり得る症状として、排便により軽快する傾向のある下腹部の痛みや不快感、おなら、腹部膨満感、吐き気などがあります。さらに、めまい・頭痛・動悸・肩こりなどの自律神経失調症状や不安感・落ち込み・イライラ・不眠などの精神症状がみられることもあります。

迷走神経(めいそうしんけい)は、脳神経の1つで、延髄から出ており、体内に広く分布しています。感覚神経や運動神経、副交感神経を含み、嚥下運動や声帯の運動、耳介後方の感覚、心機能の抑制、気管支平滑筋の収縮、消化管運動の促進などに関与しています。